「フレンチ・トラッド」再考

ルール

「フランス人が着そうなアイビー」 日本人がつくったスタイル

1980年代に「フレンチ・アイビー」「フレンチ・トラッド」というファッション・カテゴリーができあがったという記憶があります。

BCBGって何?

このスタイルのもとは、BCBG(Bon Chic Bon Genre)という本からきています。
1980年代のパリ16区あたりの上流階級のお嬢様、お坊ちゃまの趣味の良いファッションやライフスタイルを指した言葉で、アメリカの「プレッピーハンドブック」のようなハンドブックスタイルで「BC BG」というタイトルの本が出版されていました。その後、「FDG」(エフ・デ・ジェ」というお坊ちゃまスタイルの本も登場しました。

1980年代といえば、日本では「ビームス」「シップス」といわれる輸入雑貨をあつかうお店が、当初は「Made inUSA」モノを入れていたのですが、段々とヨーロッパの洋服を取り扱うようになり、ビームスは「BEAMS Internatinal Gallery」、シップスは「マルセル・ラサンス」を展開して、いつからか「輸入雑貨店」から「セレクトショップ」と呼ばれるようになりました。

元祖セレクトショップはフランス生まれ

そのセレクトショップの元祖と呼ばれる「HEMISPHERES」(エミスフェール)が 1979年にパリの16区、グランド・アルメ通りにオープンしました。

「HEMISPHERES」(エミスフェール)とは、フランス語で北半球という意味で、文字通り、アメリカからヨーロッパのいまでいう「グローバル・ノース」の様々な衣料や小物などをセレクトしました。

そのバイイングをしていたのが、現在のアナトミカのピエール・フルニエ氏です。

カウボーイブーツから色とりどりのカシミアのセーターアルパカのカーディガン、オルテガのチマヨベスト、ハートフォードのBDシャツやジャン・ブルジョワのチェックのウールパンツ、オールデンのVチップ・シューズにレールロードのコットンソックス、ロロ・ピアーナのストールなど、国やジャンルを問わず、世界中の良いものを取り揃えているという本当に素晴らしいお店でした。

残念ながら、本国フランスでは、1993年に共同経営者の逝去により閉店、日本は輸入元だった金万がお店を引き継いだのですが、2014年にクローズしました。

長々と「エミスフェール」のことを書いてしまいましたが、私の中では、「フレンチ・アイビー」=「エミスフェール」というイメージがあります。他にも前途した「マルセル・ラサンス」「オールド・イングランド」「ハリス」など80年半ば〜90年代にかけて「フレンチ・アイビー」は大いに盛り上がりました。

「フレンチ・トラッド」スタイルとは

右のコーディネートが典型的な「フレンチ・アイビー」スタイルであります。(出典:BRUTUS 1998/6/15号「フランス商品学」なにしろフランスかぶれなもので!)

BRUTUS 1998/6/15 フランス商品学より

(a)コート代わりに「M‐65フィールドジャケット」(カラーはODではなく、ベージュのポリ混紡がよし)

(b)インナーには、日本人みんな大好き「セント・ジェームスのバスクシャツ」

(c)エミスフェール別注、ボルドーカラーのコーデュロイBDシャツ(赤といわずボルドーなのですよ)

(d)金ボタンがBCBG的な紺ブレは、「オールド・イングランドでは、胸にチーフが必須なのである」

(e)エミスフェールの紙袋。北半球を模した柄がおしゃれでした。(もっと昔にVANの紙袋を脇に抱えたように)

(f)裾幅18cmのテーパードステム。腰回りはゆったりのツープリーツ。「ジャン・ブルジョワのチェックパンツ

(g)「チャーチのモンクストラップシューズ」意外やイギリスモノですが、色はイギリス人が絶対履かないネイビーをチョイス。このあたりが粋ですな!

と段々と「ヨーロッパ退屈日記」の伊丹十三氏のような口調になってまいります。

というものの1998年は、すでに日本のセレクトショップが全盛期。こんな格好をしたおしゃれなフランス人がいたんでしょうか。

本場を凌駕する日本のイマジネーション

「AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語」(デービット・マークス著)でも語られていましたが、日本は「アイビー・スタイル」で本家(アメリカ)をしのいでしまったように、「フレンチ・アイビー」もこの頃すでに本国(フランス)よりおしゃれで粋なコーデイネイトしていたのです。

「もし、オレがフランス人だったら」という感じでアメリカに憧れているお洒落なフランス人のオレが何を着るかっていう作業だから、当然、そこには高度なテクニックとしての「ハズシ」がある。
例えば、フランス人で趣味がよくてお金があれば靴はウェストンになるんだろうけど、そこにあえてチャーチを持ってくる。

BRUTUS「フランス商品学」P17

最近、雑誌などでも、フレンチ・スタイルが再注目されています。

古着でも、あいかわらず、「フレンチ・サープラス」は人気で、M-47カーゴパンツは未だかなり高額で取引されてますし、リプロダクト商品もオリジナルより高い値段売られています。

フランスでもイギリスでも、ヨーロッパのモノって、やはり「粋」を感じます。服に歴史があるからでしょう。

その「粋」をつくり出すために「ハズシ」が効くんですよね。靴は「ウェストン」でなくて「チャーチ」っていいですよ。

「アッ!」いま思い出したんですけど、フレンチ・トラッドって、ジーンズに革靴を合わせるのが、当時のお決まりでした。

JMウェストンのローファーに合わすジーンズは当然「Levi’s」じゃなくて「LIBERTO」ですよ。

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