サンドウィッチ礼賛・その弐 ダッグウッド・サンドウィッチ

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「女たちよ!」伊丹十三 新潮文庫P173「ダッグウッドの悦び」

ナイーブな天才!伊丹十三

ご存知のように、伊丹十三氏は、映画監督の伊丹万作氏の長男として生まれて、映画俳優、エッセイスト、デザイナーなどを経て、映画監督になった、いわゆる「マルチ・タレント」な方でした。

私的な印象ですが、「眉間にシワを寄せた気障で気難しくて粋なホンモノ志向の大人で時々少年なる人」って感じ。要するに「ナイーブな天才」ということですかね。

「ヨーロッパ退屈日記」と「女たちよ」がでた頃の日本

この「女たちよ!」という本は、1968年3月に刊行されたもので、東京オリンピックが終わり、大阪万博に向かうという高度経済成長期の真っ只中。その前に出版されたもう一つの名著「ヨーロッパ退屈日記」が3年前の1965年といずれも日本がイケイケの頃に世に出ています。

スパゲッティの召し上がり方、アルコールの嗜み方、サラダの本格的な作り方、クルマの正しい運転法、セーターの着こなし方、強風下でのマッチの点け方、そして「力強く、素早く」の恋愛術まで。体験的エピソードをで描かれる実用的な人生論風エッセイ。

「女たちよ 内容紹介(裏表紙より)」

食べ物や酒や車など身の回りにあるものや事柄について、ヨーロッパ志向の独自のセンスで書かれた、「当時としては、全く新しい、挑発的な、驚くべき本だった。」(「女たちよ!新潮文庫版)と文庫版に解説を寄稿した池澤夏樹氏が書かれています。
そして、高度経済成長期やバブル時代やITバブルなどの経済の波を経ても、尚、氏の気障で粋なホンモノ志向の教えを再認識する事ができる。

真っ当な大人になることを教えてくれる?

処女作の「ヨーロッパ退屈日記」を出版するときに世話をした作家の山口瞳氏がその本の裏表紙に「私はこの本が中学生・高校生に読まれることを希望する。汚れしまった大人たちではもう遅いのである。」と寄せています。

「真っ当な大人になるにはどうしたらいいのか?」ということを50年以上も前に書かれたこの本が教えてくれます。

そんな50年以上も前に描かれた本の中にまだまだ知らないことがあります。

ダックウッド・サンドウィッチってなんだ?

この「女たちよ!」には、数多くのサンドウィッチが紹介されています。そして「ダグウッドの悦び」という章に、ダッグウッド・サンドウィッチについて伊丹十三氏は、このように紹介しています。

「私はダックウッドと同じで、サンドウィッチになんでもかんでも詰め込むのが好きなほうである。ダックウッドを知らぬ方はないと思うが、念のためにいうなら、ダッグウッドが、つまり漫画の主人公が深夜パジャマ姿で台所に起き出し、そのへんの食べ物をあらいざらい詰め込んで、およそ手風琴ほどもあるサンドウィッチを作る。満面笑みを浮かべて食らいついたとたんに、サンドウィッチの中に紛れこんでいたハーモニカがピッと鳴って奥さんを起こしてしまう。すなわち大いにやりこめられる。と、まあこういう精神の漫画が戦後大いに流行したことがあって、以来、材料を一杯に詰め込んだ特大のサンドウィッチをダッグウッド・サンドウィッチといいならわすようになったのですね。」

「女たちよ!」伊丹十三 新潮文庫 P174
謎のダックウッド・サンドウィッチの正しい持ち方

わかりましたか?
「材料をいっぱい詰め込んだ特大のサンドウィッチ」のことを「ダッグウッド」と呼ぶことは文章から理解できたのですが、名前の由来の「ダッグウッド」がサッパリわかりません。なんとなく戦後まもない頃に流行った漫画の登場人物であるということですね。

なんと「サザエさん」の前はアメリカン・コミックだった!

さっそく、ウィキペディア調べてみるとアメリカの「ブロンディ」という新聞漫画。ヒロイン「ブロンディ」とその夫「ダッグウッド」とその家族の物語で、米国では1930年から連載が始まり、日本では1946年から1956年に週刊朝日、1949年1月1日から1951年4月15日まで、朝日新聞の朝刊に掲載されたということです。

ちなみに、朝日新聞の連載漫画といえば、「サザエさん」が有名ですが、朝日新聞に連載が始まったのが、1951年4月16日となっていますので、この「ブロンディ」のほうが先に世間に広まっていたようです。

「ダックウッド」ってこんな人

ダッグウッドはこんな人なんだ。

ダックウッド・サンドウィッチの由来になった人は「ブロンディ」という漫画のもうひとりの主人公だったというわけです。

実家は百万長者だが、相続権をなげうってまでブロンディと結婚する。て食べることとなることが趣味。

引用:ウィキペディア ブロンディ(漫画)より

ようやく、ダッグウッド・サンドウィッチが何かというのがわかってきました。

映画監督が愛した「ダッグウッド・サンドウィッチ」

日本の偉大な映画監督といえば、伊丹十三氏も当然なんですが、やはり「世界の」という定冠詞がつくのは、「黒澤明」氏でしょう。

氏もグルメでならした方で、とりわけ肉料理がすきだったようですが。

ずいぶん以前、TV番組のなかで、好んで食べていた夜食レシピとして紹介されたのもダックウッドでした。
何種類ものハムを重ねてつくる「ダッグウッド・サンドウィッチ」を好んだそうです。

「ありとあらゆるハムを買ってきて、重ねてそのままパンにはさんで辞書並みになったサンドウィッチを切り分けることなく食べていた」そうです。

上記のイラストのように伊丹十三氏が描いた「ダッグウッドサンドウィッチの正しい持ち方」でウイスキーグラスを手に食べていたことを想像すると巨匠と呼ばれた人の少年の部分が垣間見れそうです。

そして、巨匠は「朝食は体の栄養。夜食は脳みその栄養にになる。」といったそうです。

ということで、「ダッグウッド・サンドウィッチ」は、映画監督たちに愛されるサンドウィッチだったんですね。

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