君は”WILD CHIC”を知っているか

着る
ポパイ創刊第3号1977 WINTERより

WILD CHIC 勇気ある実験 

もう45年も前の話になんです。現在から見るとなんの変哲もないコーディネイトのように見えるのですが、これが当時は「スーパーコーディネート」と呼ばれたファッションだったのです。

本当に、当時としては「衝撃的なコーディネイト」でした。

このスタイリングを作り出したのが、スタイリストの北村勝彦さんです。

北村さんは、大分県生まれの横浜育ちで六本木にあったブティック「イン&アウト」で働いているときに、マガジンハウス石川次郎に出会い、雑誌「ポパイ」の立ち上げ時に、この「WILD CHIC」の特集を作り上げました。

本物同士は実によく調和するものである

ワイルドで機能的なアメリカンアウトドアウェアにシックなヨーロピアン系ドレスウェアを合わせるという着こなしは、当時のスタイリングとしては、斬新で目からウロコ的なものでした。

軽くて温かいダウンウェアや雨の侵入を防ぐ60/40クロスゴアテックスなどをつかったマウンテンパーカーなど便利で機能的なアウトドアウェアは、登山、トレキングやスキーなどに使う専用着で街中で着るのは野暮ったかったのですが、カラーリングやデザイン性に優れたアメリカ製のアウトドアブランドがどんどん入って来るようになりました。

それでも当時の若者は、このアウトドアウェアには、厚手のセーター、ネルシャツジーンズなどにスニーカーを合わせるアメリカン・カジュアルスタイルが主流で、なんかコーディネイトが野暮ったい印象でした。

また、ドレス系のスタイルはアイビーを中心にしたトラッドスタイルが主流であり、当時のメンズのドレス系のスタイリングはVANが作り出したワードローブをこう組み合わせばならないという「アイビー・ルール」のようなものが存在し、ジーンズでさえ、そのワードローブに入ることがなかったのです。

そして、これらの不文律を打ち破ったのが、北村勝彦さんが提案した「WILD CHIC」なのでした。

ポパイ創刊第3号1977 WINTERより

このスタイリングのクレジットを見ると、アウトドアウェアでは、NORTH FACEやSIERRA DESIGNSなどの現在に通じるブランドが並んでいる。

ここで特筆したいのはドレス系ウェアで、RALPH LAURENDUNHILLなどの海外のブランドに混ざって、メンズ・ビギバルビッシュというデザイナー・菊池武夫さんの作ったブランドが組み合わされているところです。

そして、足元もコンバースなどのスニーカーではなく、スウェードのウィングチップデザートブーツキルトタッセルのローファー、はたまたサンダルを合わせているところがすごい。

下の写真の右のページ、右側のモデルをしているのが若き日の北村勝彦さんです。
そして、2人のモデルが履いているトラウザーパンツが、メンズ・ビギのウールフラノ素材の5ポケットパンツです。
写真ではよく判らないですが、ジーンズスタイルのデザインになっていて、バックポケットがLEVI’Sのホームベース型ではなく、LEE丸みのあるバックポケットでした。

ポパイ創刊第3号1977 WINTER より

「WILD CHIC」は菊池武夫を抜きに語れない

最近、雑誌「ブルータス」のトラッド特集の中で、北村さんがこの伝説の特集「WILD CHIC」について語ってるのです。

「どんな影響から生まれたのですか?」というインタビューに対して

「具体的に言うといくつかの影響があるんだけれど、まず欠かせないのは、ファッションデイナーの菊池武夫さんだよ。みんなは絶対に信じないないだろうけど。

「彼は当時フレアパンツで稼いでいたんだけど、本当に好きだったのは、英国のジェントルマンスタイルなんだよね。そして〈ビギ〉のお店を表参道から神宮前三丁目に移転するタイミングで、テイストをガラっと英国寄りに変えたんだ。その、今までの英国スタイルとも違う日本人ならではの感性が、ぼくに言い知れぬ魅力を感じさせたんだと思う」

BRUTUS 10月1日号 スタイリスト北村勝彦さんに聞いてみた「トラッドってなんですか?」

私の記憶では、当時、菊池武夫さんがデザインしていたメンズ・ビギは、この特集が生まれる1年程前、あの伝説のドラマ「傷だらけの天使」で主演のショーケンこと萩原健一に衣装を提供して、着用したスーツやコートが飛ぶように売れていたそうで、ちょうどその時期あたりにブランドのテイストが変わったのだと思います。

WILD CHICで日本のメンズファッションが変わった

とにかくこの特集により、日本のメンズファッションは、ガラリと変わったと言えるでしょう。この特集の影響は、菊池武夫さんを唖然とさせただけではなく、掲載商品のクレジットに載った当時、9坪ほどしかなかったビームスにお客が殺到し、今日のセレクトショップの道筋をつけたといって過言ではないでしょう。

ポパイ創刊第4号に載ったビームスの記事

逆に言えば、この特集がなければ、ビームスはただのアメリカン・カジュアルの店で終わっていたかも知れません。(上の記事でもAmerican Life Shopを謳っています)ビームスの方向性が少し違ったものになったのでないかと思います。

そして何より大きかったのは、WILD CHIC以降もMILITARY CHICTENNIS CHICなどのスタイリングを企画し、ドレス、アウトドア、スポーツ、ワーク、ミリタリーなどのミックススタイルを日本に定着させた功績は大きいのです。

WILD CHICの隠し味

このコーディネイトのもう一つの特徴が、マフラースカーフ、ワッチキャップや帽子などのアクセサリーをうまく使っている点です。

単にアウトドアウェアをドレス系ウェアに組み合わせるだけでは、今ではもう普通です。しかも親父っぽくて、垢抜けない感じがしてしまいます。でも、これらのアクセサリーを加えることで、野暮ったくなるのを防いでいるところが北村流でいいですね。今でも十分に通用するテクニックだと思います。

この冬、もう一度「WILD CHIC」の真髄を楽しんでみたいと思います。

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