センスを磨くには自分を知ること
一見、ダサそうなんだけどよく見ると味があり、カッコいい。そんなダサ格好いいナード・ファッションの代表選手として、ウッディ・アレンを以前に紹介したのですが、ウッディ・アレンがアメリカ代表選手とすると、日本の代表選手はイラストレーターの安西水丸氏でしょう。
1942年生まれで、肩書はイラストレーターで作家、エッセイストと多彩な経歴を持つ。電通、ADAC(ニューヨークのデザインスタジオ)、平凡社のADを経て81年に安西水丸事務所を設立。2005年、東京イラストレーターズソサエティ理事長に就任。2014年、71歳で没しました。
ファッションと暮らし方と言動が一致している人
安西氏の代表するワードローブは、HealthknitのヘンリーネックのTシャツ、Leeの191-LBワークジャッケット、RED WING8104のOxfordShoes(短靴タイプ)、COMME des GARCONSのコットンジャケット、それにシワシワのボタンダウンシャツにヨレヨレのチノパン、そしてウェリントンタイプの眼鏡などが思い浮かびます。
安西氏が自分のスタイルを語ったときに「僕の場合、あまり服装について自分を格好良く見せるファッションとして考えたことはなく、例えばTPOに合わせるためだったり防寒だったりっていう、目的に合わせた機能をいちばんに考えます」
そして「見た目とかじゃなくて、子供が暑いとか寒いとかの体温調節のために服を着ているのがそのまま大人になったような感じですね。洗いざらしのシワが残ったままを着るのがいちばん心地いいんですよ」
「雪舟と水丸の絵は誰にも真似できない」
「雪舟と水丸の絵は誰も真似ができない。雪舟の絵はうますぎて真似できない。水丸の絵は下手すぎて真似できない」盟友の嵐山光三郎は、安西氏の絵を評してこういった。
安西氏は、よくこの話をして笑いのネタにしていたそうですが、「うまい絵ではなく、その人に描けない絵である」ということにこだわっていた安西氏には最高の褒め言葉だったのでしょう。
絵に失敗はない
氏のエッセイの中で「似顔絵を描くのが下手だ」と子供の頃から似顔絵をよく描いていたそうだが、ただ似ていないから、描いた顔のところに名前をきちんと書くことにしたそうだ。似顔絵で有名なイラストレーターの山藤章二氏からは「似ていないけど、詩心を持って見るとなんとなく似ているようにもおもえますね」と、こちらも最高の褒め言葉をいただいた!?
「チューリップを描いて、それが人の目にはチューリップに見えなくても、それはその人のチューリップだからそれでいいのだ」と、そして、安西氏はこうも言ったのです「僕は絵は多少下手でも描いている人の気持ちがしっかり出ている絵が好きだ」「上手い下手ではなく、その人の気持ちが出ていることがたいせつなのだ」
センスを磨くには恥ずかしさを知っていること
作家の吉本由美さんが安西氏のことを
&Premium2022年5月号 センスがいいって、どういうことですか?
「最高にセンスがいいと思う、イラストレーターの安西水丸さん。あれほどファッションと暮らし方と言動が一致している人はなかなかいません。オーソドックスな格好なのにちょっとしたところを崩していて、それがかっこういい。アイロンはかけないし、新品は恥ずかしいからくたくたにしてから身に着ける。とても恥ずかしがり屋で、自分の中身を知られたくない様にガードしていますが、それがとても自然。センスを磨くには恥ずかしさを知っていることがやっぱり重要です」
絵は体を表す!?
安西水丸さんのファッション・スタイルは、誰もが真似をできそうでできない。それは彼の絵の様でもあります。
前出の吉本由美さんが言うように、「暮らし方と言動が一致」し、それを貫く感性がなければ絶対に無理なこと、だから最高にセンスがいいといわしめるのでしょう。
どう考えても、ダサ格好いいアメリカ代表ウディ・アレンに対抗できる日本代表は安西水丸さんしか、考えられないのです!
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