「卒業」で見るアイビースタイル
ファッション的な見方での、この映画の見どころは何といっても、ダスティン・ホフマンの着こなしにあります。
東部の伝統校(詳しい大学の設定はわかりませんが、ニューヨークにあるコロンビア大学あたりを想定している?)を卒業した優等生のスタイルを体現しています。
ナチュラルショルダーのダークグレーのスーツに白のB/Dシャツとレジメンタルストライプ・タイをあわせたスタイルはまさに優等生!エスタブリッシュメント!!
ブレザー・コートを着た優等生
最初は、典型的なアイビー・リーガーです。撮影に使われた衣装は、「ブルックス・ブラザーズ」が多かったと聞きますが、このレジメンタル・タイについては、どうも「ブルックス・ブラザーズ」のものではなさそうです。
というのも「ブルックス・ブラザーズ」のレジメンタル・タイは「レップ・タイ」と呼ばれ、基本的に縞が右下がりになっています。この写真は左下がりになっているので、「ブルックス・ブラザーズ」のものではなさそうです。
ツィード・スタイルもいいね
ミセス・ロビンソン(アン・バンクロフト)と不倫に走るベンジャミン君。ロサンゼルスの夜は冷えるのか?ヘリンボーン・ツィード・ジャケットにグレー系のパンツを合わせているように見えます。
ウディ・アレンの「アニー・ホール」でもアニーを追いかけてロサンゼルスに行ったウディのスタイルも周りは半袖の人もいるのにツィード・ジャケットを堂々と着ていました。これこそアメリカン・スタイル(スタイルの多様性)といったところでしょうか。
キッチンがかっこよすぎ
プライベートプールにダイビングの格好で飛び込める自体かなりの裕福な家庭なんでしょう。ここに写っているキッチンに両開きの冷蔵庫が据え付けられているようですが、公開されたのが、1967年と考えると当時の日本とはかなりの格差があったわけです。
どんどんスタイルが崩れていく
映画のポスターやサントラ盤のジャケットになった有名なカットです。キャメルカラーのコーディロイJKにおそらくサックスブルーのB/Dシャツを合わせるアイビー・スタイルをカジュアルダウンさせたお手本のようなコーディネイトです。
ちなみにコーディロイといえば、このキャメルカラーを思い浮かべてしまいます。ダークブラウンやブラック、ネイビーなどの濃色では、ホコリなど汚れが目立ちますし、色褪せも気になってしまいます。
映画の後半でも、このJKがよく着られているのですが、汚れてくたびれていくのがサマになるのもキャメルカラーだからではないでしょうか?
爽やかな典型的なサマー・スタイル
ミセス・ロビンソンの娘エレーン(キャサリン・ロス)と付き合おうとするベンジャミン。
母親との不倫を隠して、シアサッカージャケットにサックスブルーのB/Dシャツとネイビーのニット・タイを合わせる爽やかなサマースタイルでデートするベンジャミン君。
コーディロイを着た悪魔(ストーカー)
エレーンに母との不倫を打ち明けて、拒否られた挙げ句、ストーカー化したベンジャミン君
先程着ていたコーディロイJKが、かなりくたびれた感じがでていますよね。合わせている服も黒のポロシャツに色落ちしたジーンズとかなりラフなスタイルになってきました。
サマー・オブ・ラブの影響?
時代背景的に、1967年というのは「サマー・オブ・ラブ」というヒッピームーブメントが台頭してきた時期で、この映画の舞台のひとつになっているサンフランシスコのバークレーという土地は、「サマー・オブ・ラブ」のまさしく震源地であり、アイビー・リーガーのベンジャミン君もヒッピームーブメントの影響を受けたということでしょう。
超有名なラストシーン。ガス欠になったアルファロメオ・スパイダーを乗り捨てて走り続け、サンタ・バーバラの教会にたどり着いたベンジャミン君はついにエレーンを略奪するのでありました。老人だらけのバスに乗って、このあと2人はどうなったのだろう?思った方が数多くいらしゃったと思います。
最後は、それ着ていたテーラードJKを脱ぎ捨てて、ヨット・パーカーのような上着にポロシャツにコットンパンツ(映画の中では、ホワイト・ジーンズのようにも見えたのですが…)にボロボロのジャック・パーセルという出立ちであります。かなりカジュアルダウンされていますが、さすがアイビー・リーガーのベンジャミン君。「アイビー魂」を忘れていません!
足元が、「オールスター」でも「トップサイダー」でもない、当時はややマイナーなジャックパーセルをチョイスしている点が素晴らしいです。合わせているコットンパンツの丈も絶妙で、やはりスニーカーに合わせるにはこれぐらいの丈がベストなのです。
その後、ベトナム戦争が激化し70年代初め頃までピッピームーブメントが続きます。「PEACE&LOVE」の時代で、若者のファッションは、一気にフリーダムな感覚になり、安価で丈夫なワークウェアであったジーンズが市民権を得ました。シルエットもアイビースタイルのようなタイトなものからルーズフィットなフレアーやベルボトムといったものに変化していきました。
この映画の時代性をファッション的に読み解くと米国東部の「エスタブリッシュメント」なスタイルであったアイビー・スタイルが衰退していき、より自由なアメリカを象徴する西海岸から起こった「ピッピームーブメント」なスタイルに変わる。ちょうど端境期を象徴するような映画であったと思います。
また、この映画の設定が60年代後半の卒業するシーズン(6月ごろ)からの1年間になっているので、ツィード、コーディロイ、シアサッカー、デニムなどのいろいろな素材のアイテムを見ることをできるのが当時のスタイルを知るうえで大いに役立ちます。
やっぱり映画の中の着こなしはかっこいい!
映画の中の「登場人物に憧れて、同じような服装をして街を闊歩する」というようなことをしたことを男女を問わず、少なからずしたことがあるという方がいらしゃるのではと思います。
最近の映画、TVを問わず、システム化されていて、コスチュームデザイナーやスタイリストさんに指定されたコーディネイトをただ着るだけということが多いのでしょうが、昔の映画は、俳優さん自身が自分の演じる役に応じてコーディネイトに注文をつけることも多くあったと聞きます。
特に60〜70年代につくられた映画には、今の時代にも通じる(というかここに基本があります)服の宝庫です。
これからもいろんな時代のファッション的に気になる映画を取り上げて、その時代背景などと共に読み解きたいと思います。
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